石井分子遺伝学研究室

上席研究員

石井 俊輔

  • Shunsuke Ishii
  • 理学博士
  • 石井 俊輔
  • 略歴
    1977
    神戸大学理学部生物学科 助手
    1980
    大阪大学大学院理学研究科 博士学位取得
    1982
    理化学研究所 分子遺伝学研究室 研究員
    1983
    米国 国立癌研究所 分子生物学研究室 客員研究員
    1987
    理化学研究所 分子遺伝学研究室 副主任研究員
    1989
    同 石井分子遺伝学研究室 主任研究員
    1992
    筑波大学連携大学院人間総合科学研究科 客員教授 (現職)
    2012
    理化学研究所 石井分子遺伝学研究室 上席研究員(現職)

研究概要

石井分子遺伝学研究室

DNAからmRNAが合成される転写の制御は、生命現象の根幹である。当研究室では、転写制御メカニズムを解明することを目指して、転写制御因子の解析を行なっている。動物細胞の多くの転写制御因子は1980年代にクローニングにより同定され、これまでにその構造解析と、ノックアウトマウスを用いた生理機能の解明が続けられて来た。一方、転写の基本メカニズムを理解するため、転写制御因子とRNAポリメラーゼのような基本転写因子を結びつける仲介因子が同定され、それらがヒストンのアセチル化を制御することから、ヒストンの化学修飾の重要性が明らかにされた。そして最近では、エピジェネティック制御と呼ばれる、DNA配列の変化では説明できない現象が、多くの科学者の興味を集めてきた。この現象は、ヒストンのメチル化が細胞分裂を超えて維持され、長期間維持される事によることが分かってきた。我々は、細胞増殖や発生分化を制御する転写制御因子を解析すると共に、マウスやショウジョウバエなどのモデル生物を用いて、これらの因子の異常によって生じる種々の疾患について研究を進めている。

最近の研究成果

ストレスによるエピゲノム変化の遺伝

近代遺伝学の発展は、メンデル遺伝学をDNA配列を基にして、説明しようとする過程であり、実際に多くの遺伝現象はDNA配列の変化で説明できる。しかし、DNA配列の変化では説明できない現象も存在し、エピジェネティック制御と呼ばれ、多くの科学者の興味を集めてきた。最近の研究によって、この現象は、DNAのメチル化やヒストンの化学修飾が細胞分裂を超えて維持され、長期間維持されるためであることが分かってきた。このような化学修飾を受けたゲノムはエピゲノムと呼ばれている。

我々は、種々のストレスによって活性化されるATF-2ファミリー転写因子について研究している。ATF-2ファミリーメンバーの一つであるATF-7が、精神ストレスにより活性化され、エピゲノム状態を変化させることを、我々は最近明らかにした。ATF-7は脳内の背側縫線核において、セロトニン受容体5B(Htr5b)遺伝子に結合し、ヒストンメチル化酵素をリクルートして、ヘテロクロマチン様構造を形成し、転写を抑制する(図1上)。野生型マウスをケージ内で一匹だけ単独飼育を行ない、社会的分離ストレスを与えると、ATF-7がリン酸化され(図2)、Htr5b遺伝子から遊離し、転写を誘導することが分かった(図1下)。マウスに社会的分離ストレスを与えると種々の行動異常を呈し、長期間持続することが昔から知られていた。我々の結果によって、その分子メカニズムの一端が明らかになった。

一方、ショウジョウバエATF-2(dATF-2)もストレス誘導性のヘテロクロマチン破壊に関与することを、我々は最近明らかにした。眼の赤色色素の生合成に関与するWhite遺伝子が、ヘテロクロマチンの近傍に存在する系統では、white遺伝子の転写がヘテロクロマチンの影響を受け抑制されるため、白眼となる。ショウジョウバエの発生初期に熱ストレスを与えると、dATF-2がリン酸化され、ヘテロクロマチンから遊離し、ヘテロクロマチンが壊れることが示された。このヘテロクロマチンの破壊は眼が赤くなることにより示される(図2)。興味深いことに、この赤眼の状態は次世代に遺伝することが分かった。この状態は孫の世代には遺伝しないことから不安定なものである。しかし、二世代にわたって熱ストレスを与えると、赤眼の状態は次の三世代にわたって遺伝することが示された(図2)。この結果は、ストレスによるエピゲノム変化が世代を超えて遺伝する事を示すもので、大変興味深い。

ATF-2ファミリー転写因子は、細胞増殖、代謝、免疫、脳神経機能などに関与し、乳がんなどの疾患とも関連する。これらの生命現象に、ATF-2を介した種々のストレスによるエピゲノム変化がどのように影響するのかは興味深い。

ATF-2ファミリー転写因子によるエピジェネティック制御
図1 ATF-2ファミリー転写因子によるエピジェネティック制御
ATF-7はHtr5b遺伝子の転写制御領域に結合し、ヒストンメチル化酵素をリクルートして、転写を抑制している。社会的分離ストレスにより、ATF-7がリン酸化されると、ATF-7がHtr5b遺伝子から遊離し、転写が亢進する。その結果、マウスは行動異常を呈する。
ストレスによるエピゲノム変化の遺伝
図2 ストレスによるエピゲノム変化の遺伝
親の世代だけが熱ストレスを受けると、その影響は子供にだけ遺伝し、孫には遺伝しない(緑)。しかし、二世代にわたって熱ショックストレスをうけると、その影響は子供のみならず孫にも伝わる(黄色)。

転写制御因子による生命現象のコントロール

我々は、これまでにMybやSkiがん遺伝子産物が転写制御因子として機能することを明らかにし、現在それらの生理機能を解析しつつある。また、Shn-2ファミリー転写因子を同定し、現在それらの生理機能を解析しつつある。加えて最近、我々は、初期発生や体細胞のリプログラミングに関与するヒストンバリアントに注目し、その生理機能と作用メカニズムを解析しつつある。我々は、個体レベルでの研究には、主としてマウスと、遺伝学的解析に適したショウジョウバエを用いている。このように、当研究室では、いくつかの転写因子を切り口として、基本的な転写制御メカニズム、発生・分化のメカニズム、がんなどの疾患の発症メカニズムを研究している。

主要論文

  1. KH. Seong, D. Li, H. Shimizu, R. Nakamura, S. Ishii, Inheritance of stress-induced, ATF-2-dependent epigenetic change, Cell 2011, 145, 1049.
  2. TL. Staton, et al. Dampening of death pathways by Schnurri-2 is essential for T cell development, Nature 2011, 472, 105.
  3. T. Maekawa, et al. Social isolation stress induces ATF-7 phosphorylation and impairs silencing of the 5-HT 5B receptor gene, EMBO J. 2010, 29, 196.
  4. T. Maekawa, W. Jin, S. Ishii, The role of ATF-2 family transcription factors in adipocyte differentiation: anti-obesity effects of p38 inhibitors, Mol. Cell. Biol. 2010. 30, 613.
  5. T. Yamauchi, et al. A B-Myb complex containing clathrin and filamin is required for mitotic spindle function, EMBO J. 2008, 27, 1852.
  6. H. Shimizu, M. Shimoda, T. Yamaguchi, KH. Seong, S. Ishii, Drosophila ATF-2 regulates sleep and locomotor activity in pacemaker neurons, Mol. Cell. Biol. 2008, 28, 6278.
  7. C. Kanei-Ishii, et al. Fbxw7 acts as an E3 ubiquitin ligase that targets c-Myb for nemo-like kinase (NLK)-induced degradation, J. Biol. Chem. 2008, 283, 30540.
  8. T. Maekawa, et al. Reduced levels of ATF-2 predispose mice to mammary tumors, Mol. Cell. Biol. 2007, 27, 1730.
  9. W. Jin, et al. Schnurri-2 controls BMP-dependent adipogenesis via interaction with Smad proteins, Dev. Cell 2006, 10, 461.
  10. C. Kanei-Ishii, et al. Wnt-1 signal induces phosphorylation and degradation of c-Myb protein via TAK1, HIPK2, and NLK, Genes Dev. 2004, 18, 816.

主要メンバー

主宰者 add delete
石井 俊輔 Shunsuke Ishii 上席研究員    
スタッフ研究員 add delete
品川 敏恵 Toshie Shinagawa 専任研究員    
前川 利男 Toshio Maekawa 基幹研究所研究員    
成 耆鉉 Ki-Hyeon Seong 基幹研究所研究員    
ポスドク add delete
吉田 圭介 Keisuke Yoshida 基礎科学特別研究員    
中邑 亮一 Ryoichi Nakamura 特別研究員    
塚本 大輔 Daisuke Tsukamoto 特別研究員    
李 棟 Dong Li 特別研究員    
学生・研究生 add delete
ビンビン・リュウ BinBin Liu 大学院生リサーチ・アソシエイト    
モハマッド・マハブ・ザマン Md. Mahabub-Uz Zaman 国際プログラム・アソシエイト    
リン・ミー・ファン Linh My Huynh 研修生    
技術系アシスタント add delete
飯島 由子 Yuko Iijima テクニカルスタッフⅠ    
吉波 香織 Kaori Yoshiba テクニカルスタッフⅡ    
竹村 めぐみ Megumi Takemura テクニカルスタッフⅡ    
丸山 裕子 Yuko Maruyama テクニカルスタッフⅡ    
事務系アシスタント add delete
客員研究員・客員技師 add delete
その他のスタッフ add delete
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