山崎原子物理研究室

上席研究員

山崎 泰規

  • Yasunori Yamazaki
  • 工学博士
  • 山崎 泰規
  • 略歴
    1978
    大阪大学大学院工学研究科応用物理学専攻 博士課程修了
    1978
    東京工業大学原子炉工学研究所 助手
    1988
    東京大学教養学部 助教授
    1993
    同 教授
    1996
    東京大学大学院総合文化研究科 教授
    1997
    理化学研究所 山崎原子物理研究室 主任研究員
    2010
    同 上席研究員(現職)
    2010
    東京大学大学院総合文化研究科 特任教授(現職)

研究概要

山崎原子物理研究室

当研究室では、反水素を用いた反物質科学研究を展開している。極低温のスピン偏極反水素、反陽子原子など、反陽子を含むエキゾチックな原子・分子をこれまでより数桁高い効率で生成し、その物理的・化学的・分光学的性質の解明を通じて、自然のもっとも基本的な対称性であるCPT対称性を高い精度でテストする。これを実現するため、アンチヘルムホルツコイルと多重リング電極からなるカスプトラップを新たに提案・開発している。2010年末にはカスプトラップ中での反水素大量合成にはじめて成功し、磁気瓶への反水素の捕捉実験とともに英国物理学会のPhysics WorldのBreakthroughs of the year (2010) の第一位の業績と評価された。キーワードは「自然のささやきを聞く」である。反陽子はまた、負の陽子、重い電子としても振る舞うので、衝突ダイナミクスの研究にはきわめてユニークなプローブとなる。特に、一回衝突条件下での反陽子原子生成過程の研究を進める。

また当研究室では、粒子-物質相互作用の学際的研究を行っている。原子物理学・原子衝突の知見をもとに、放射線生物学、表面科学、非中性プラズマ物理学にわたる学際的研究を進める。これまで避けられがちであった荷電粒子と絶縁体の相互作用も探索する。既に、ビーム誘起絶縁体-導体遷移など、予想外の現象を見いだしている。独自に開発した荷電粒子のマイクロビーム化技術を駆使し、生細胞サージェリーをはじめとするミクロな放射線生物学への応用研究を進めるとともに、ウェットな標的と荷電粒子の相互作用研究を開始する。

最近の研究成果

極低温反物質で自然のささやきを聞く

水素と反水素の対称性
図1 水素と反水素の対称性

この宇宙はビッグバンで始まったと信じるに足るいくつもの証拠がある。同時に、これまでのところ様々な物理量についてCPT(Charge, Parity, Time)対称性が高い精度で保存していることも知られている。多くの理論的取り扱いも、CPT対称性が保存するような枠組みのもとに構築されている。これを信じると、ビッグバンでは物質と反物質が等量生成されたはずだと結論できる。一方、これまでの観測から、我々の視野に入っている宇宙は物質から成り立っていて、物質-反物質間の対称性は破れているように見える。この「消えた反物質」の不思議は様々に議論されているが、一つの有力な仮説がCPT対称性の破れである。CPT対称性はペアを組む物質と反物質は、質量や電荷(の大きさ)、寿命等の物理的性質が全く同じであることを主張するので、まずなすべきは、両者の間に違いがあるか、あるとすればどの程度かを実験的に確かめることである。勿論、このテーマは物理学の基本法則をテストするもので、それだけできわめて興味深くまた重要であることは論を待たない。さて、CPT対称性は破れているとしてもごく僅かだと予想されるので、CPT対称性のテストには高い精度が要求される。高精度を実現するためには長い観測時間が必要で、従って、ほぼ静止し極低温にある反物質を大量に生成する必要がある。この目的に最適の反物質が反水素原子である(図1参照)。反水素原子は真空中で安定であり、比較対象とすべき水素原子はその分光学的性質が非常に高い精度で知られているためである(1S-2S遷移エネルギーは14桁、基底状態の超微細分裂は12桁の精度で決定されている)。

以上の目的を達成するため、極低温のスピン偏極反水素原子ビームを生成できるカスプトラップ法を新たに考案し、その開発を進めている。図2に実験の概念図を示す。カスプトラップ中で合成された反水素は図の右側からスピン偏極反水素ビームとして引き出され、マイクロ波キャビティと6重極磁石により超微細分裂が測定される。現在のセットアップで6-7桁の精度が得られる予定で、これまでに知られている反陽子の磁気モーメントの精度が一気に3-4桁向上し、さらに反陽子の内部構造に関わる情報(Zemach効果)も得られると考えている。

図3(a)に、カスプトラップ部の断面図に磁力線を重畳させたもの、および、図3(b)に反水素合成に用いる典型的なポテンシャル分布の例を示す。この場合、陽電子雲はz=100mm付近に静止し、その前後を反陽子雲が振動することになる。2010年には、陽電子をカスプトラップ中に捕捉し、そこへ超低速の反陽子をパルス的に打ち込むことで反水素を大量に合成することに成功した。これは不均一磁場中での反水素合成に成功したこれまでに例のない成果である。次のステップは、反水素ビームの引き出し確認と、その最適化である。それに次いで、いよいよ反水素の高分解能マイクロ波分光を進めることになる。

カスプトラップ法の概念図
図2 カスプトラップ法の概念図
反水素の原材料である反陽子と陽電子は図の左側から入射、蓄積、冷却され、図の右側から反水素ビームとして磁場に沿って引き出される。
カスプトラップの構造
図3 カスプトラップの構造
(a)カスプトラップ部の断面図と磁力線分布。中央部多重リング電極のある部分は10K以下に冷却されている。(b)反水素生成のためのポテンシャル分布。

主要論文

  1. N. Okabayashi, K. Komaki, Y. Yamazaki, Enhanced Sputtering from the F/Si(100) Surface with Extraction of the Surface Bond Direction, Phys. Rev. Lett. 2011, 107, 113201.
  2. Y. Enomoto, et al. Synthesis of Cold Antihydrogen in a Cusp Trap, Phys. Rev. Lett. 2010, 105, 243401.
  3. G. B. Andresen, et al. Trapped antihydrogen, Nature 2010, 468, 673.
  4. H. Knudsen, et al. Target Structure Induced Suppression of the Ionization Cross Section for Very Low Energy Antiproton-Hydrogen Collisions, Phys. Rev. Lett. 2010, 105, 213201.
  5. N. Kuroda, et al. Radial compression of antiproton cloud for production of intense antiproton beams, Phys. Rev. Lett. 2008, 100, 203402.
  6. T. Iwai, et al. Ion irradiation in liquid of mm3 region for cell surgery, Appl. Phys. Lett. 2008, 92, 023509.
  7. T. Ikeda, et al. Production of a microbeam of slow highly charged ions with a tapered glass capillary, Appl. Phys. Lett. 2006, 89, 163502.
  8. T. Azuma, et al. Anisotropic X-Ray Emission from Heliumlike Fe24+ Ions Aligned by Resonant Coherent Excitation with a Periodic Crystal Potential, Phys. Rev. Lett. 2006, 97, 145502.
  9. N. Kuroda, et al. Confinement of a large number of antiprotons and production of an ultra-slow antiproton beam, Phys. Rev. Lett. 2005, 94, 023401.
  10. N. Oshima, et al. A new positron accumulation scheme in ultra high vacuum, Phys. Rev. Lett. 2004, 93, 195001.
  11. S. Ninomiya, et al. Stabilized hollow ions extracted in vacuum, Phys. Rev. Lett. 1997, 78, 4557.

主要メンバー

主宰者 add delete
山崎 泰規 Yasunori Yamazaki 上席研究員    
スタッフ研究員 add delete
金井 保之 Yasuyuki Kanai 専任研究員    
小島 隆夫 Takao Kojima 専任研究員    
池田 時浩 Tokihiro Ikeda 専任研究員    
小林 知洋 Tomohiro Kobayashi 専任研究員    
浜垣 学 Manabu Hamagaki 先任技師    
ポスドク add delete
ステファン・ウルマー Stefan Ulmer 国際特別研究員    
ダニエル・ジェームス・ムルタ Daniel James Murtagh 国際特別研究員    
フォルクハルト・メッケル Volkhard Maeckel 特別研究員    
学生・研究生 add delete
技術系アシスタント add delete
事務系アシスタント add delete
和田 ひとみ Hitomi Wada アシスタント    
客員研究員・客員技師 add delete
ウォルター・マイスル Walter Meissl 客員研究員    
その他のスタッフ add delete
荻原 清 Kiyoshi Ogiwara 特別嘱託職員    
島村 勲 Isao Shimamura 研究嘱託    
渡部 力 Tsutomu Watanabe 研究嘱託    
小牧 研一郎 Ken-ichirou Komaki 研究嘱託    
毛利 明博 Akihiro Mohri 研究嘱託    
永田 祐吾 Yugo Nagata 研究支援パートタイマー    
井澤 真知子 Machiko Izawa 一般事務パートタイマー    
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