望月理論生物学研究室

主任研究員

望月 敦史

  • Atsushi Mochizuki
  • 博士(理学)
  • 望月 敦史
  • 略歴
    1998
    九州大学理学部 助手
    1999
    九州大学大学院理学研究科 博士学位取得
    2002
    岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 助教授
    2008
    理化学研究所 望月理論生物学研究室 主任研究員(現職)

研究概要

望月理論生物学研究室

当研究室では、理論的手法を用いて、生命現象の解明に取り組んでいる。近年の生物学の急速な発展により、生命現象を作り出す分子機構の解明が進み、その情報量の増加はとどまることを知らない。高次な生命現象の多くが、分子や細胞などの要素が複雑に制御しあうネットワークに支配されており、そのシステム全体から機能が生まれることが明らかとなってきた。我々は数理的手法や計算機的手法を用いることで、増加し続ける情報を処理し、複雑なシステムに統合的な理解を与えることを目指している。理論的手法を用いることで、複雑に見えるシステムに対しても、それを支配する単純な法則を導くことができる。例えば我々の開発した制御ネットワークの力学理論により、100種を越える生体分子を含む複雑ネットワークから、数種の分子を含むネットワークへと、力学的性質を保持したまま単純化することができる。ネットワーク理論以外に、現在集中的に取り組んでいる研究テーマとして、線虫の温度走性機構の数理的解明、神経細胞の樹状突起の空間制御機構の解明などがある。我々は、実験生物学者との共同研究を積極的に進めており、その繰り返しにより予測検証型の新しい生物学を構築したいと考えている。

最近の研究成果

生体分子ネットワークの構造とダイナミクス

ネットワークから不和合領域が定まり、不和合領域から定常状態多様性の最大値が決まる
図1
ネットワークから不和合領域が定まり、不和合領域から定常状態多様性の最大値が決まる。
EGF受容体下流のシグナル伝達系の解析
図2 EGF受容体下流のシグナル伝達系の解析
Informative nodesつまり状態を記憶できる構造を5つだけ持つ。

生命現象の様々な局面において、多数の生体分子が相互作用の複雑なネットワークを作り、そのシステム全体のダイナミクスから、生理機能や形態形成などの高次機能が現れることが分かってきた。しかし、相互作用ネットワークの構造が、分子の活性ダイナミクスに対して、どの様な影響を与えるのか、或いはどの様な意味を持っているのか、といった理解、すなわち相互作用ネットワークの構造と、分子の活性ダイナミクスとを結びつける理解は、ほとんど進んでいない。我々は、実験的に得られた生体分子相互作用の情報から、活性ダイナミクスの全体像を捉える理論を考案した。基本アイデアは、しごく簡単である。すなわち、各生体分子の活性ダイナミクスは、それを制御する因子の活性状態の関数である。この考えには二つの側面があり、生体分子活性状態の「不和合性(incompatibility)」、および「独立性(independency)」と名づけた。前者の「不和合性」の性質によって、活性状態の定常状態の可能性を絞り込み、可能な状態数の上限を決定できる。さらに活性状態を特徴付ける、少数の因子(Informative nodes)を抽出することも可能である。一方で後者の「独立性」から、分子の活性状態の可能な組み合わせについての条件を導くことができる。ネットワークの構造から決まるこれら二つの制約(活性状態の上限数および可能な組み合わせ)を用いることで、実験データから未知の分子間相互作用や活性状態を予測することが可能である。例えば、ホヤの初期発生にかかわる遺伝子ネットワークを解析したところ、多数の遺伝子を含む制御ネットワークの中から、遺伝子発現多様性に重要なごく少数のInformativeな遺伝子を抽出できた。また、シグナル伝達系における生体分子反応は、100以上の分子を含む複数な制御ネットワークを構築しているが、これも非常に簡単なネットワークに単純化できた。現在複数の実験系研究室と共同研究を進めており、これらInformativeな分子の活性の計測を依頼している。これらの活性パターンの情報を取り入れることで、未発見の分子間制御を予測できる可能性がある。

体節形成遺伝子の発現パターンの数理モデル

脊椎動物のPSM(presomitic mesoderm)でおこる体節形成は、異なるレベルにおけるパターン形成の連続によってなされる。すなわち広い領域で活性化する遺伝子が、より限られた領域での遺伝子の振動や発現を誘導している。一方で下流の遺伝子が、上流遺伝子の活性を抑制しており、この負のフィードバックが、一過的なパターン形成を実現していると考えられる。我々は実験に基づき、上流遺伝子への負のフィードバックに関して、二つの仮説モデルを構築し解析した。従来信じられていた仮説では、変異体の発現パターンが説明できないことが分かった。ここから新たな制御の経路が予測され、この制御経路の存在は実験的に確認された。この研究は基礎生物学研究所の、高田慎治博士、高橋潤博士との共同研究である。

体節形成遺伝子の制御の二つのモデル
図3 体節形成遺伝子の制御の二つのモデル
左:モデルA(従来の仮説)、右:モデルB(我々の仮説)。
Ripply突然変異体の遺伝子発現ダイナミクスは、二つのモデルで全く異なる
図4
Ripply突然変異体の遺伝子発現ダイナミクスは、二つのモデルで全く異なる。左:モデルA(従来の仮説)、右:モデルB(我々の仮説)。モデルBだけが実験結果を再現する。
図1
Reproduced, with permission, from A. Mochizuki, Structure of regulatory networks and diversity of gene expression patterns, J. Theor. Biol. 2008, 250, 307. © (2012) Elsevier
図3
Reproduced, with permission, from J. Takahashi, et al. Analysis of Ripply1/2-deficient mouse embryos reveals a mechanism underlying the rostrocaudal patterning within a somite, Dev. Biol. 2010, 342, 134. © (2012) Elsevier

主要論文

  1. A. Mochizuki, D. Saito, Analyzing steady states of dynamics of bio-molecules from the structure of regulatory networks, J. Theor. Biol. 2010, 266, 323.
  2. J. Takahashi, et al. Analysis of Ripply1/2-deficient mouse embryos reveals a mechanism underlying the rostrocaudal patterning within a somite, Dev. Biol. 2010, 342, 134.
  3. K. Nakazato, A. Mochizuki, Steepness of thermal gradient is essential to obtain a unified view of thermotaxis in C. elegans, J. Theor. Biol. 2009, 260, 56.
  4. A. Mochizuki, Structure of regulatory networks and diversity of gene expression patterns, J. Theor. Biol. 2008, 250, 307.
  5. K. Sugimura, K. Shimono, T. Uemura, A. Mochizuki, Self-organizing mechanism for development of space-filling neuronal dendrites, PLoS Comput. Biol. 2007, 3, 2143.
  6. S. Ishihara, M. Otsuji, A. Mochizuki, Transient and steady state of mass-conserved reaction-diffusion systems, Phys. Rev. E 2007, 75, 015203.
  7. T. Nakamura, et al. Generation of robust left-right asymmetry in the mouse embryo requires a self-enhancement and lateral-inhibition system, Dev. Cell 2006, 11, 495.

主要メンバー

主宰者 add delete
望月 敦史 Atsushi Mochizuki 主任研究員    
スタッフ研究員 add delete
立川 正志 Masashi Tachikawa 研究員    
黒澤 元 Gen Kurosawa 研究員    
ポスドク add delete
橋本 康 Koh Hashimoto 協力研究員    
中里 研一 Kenichi Nakazato 特別研究員    
齋藤 大助 Daisuke Saito 特別研究員    
津田 真樹 Masaki Tsuda 特別研究員    
瓜生 耕一郎 Koichiro Uriu 訪問研究員    
学生・研究生 add delete
技術系アシスタント add delete
事務系アシスタント add delete
客員研究員・客員技師 add delete
その他のスタッフ add delete
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