伊藤細胞制御化学研究室
主任研究員
伊藤 幸成

- 略歴
- 1982
- 東京大学大学院薬学系研究科製薬化学専攻 博士課程修了
- 1982
- 米国 マサチューセッツ工科大学 博士研究員
- 1984
- 理化学研究所 農薬化学第一研究室 研究員
- 1996
- 同 細胞制御化学研究室 副主任研究員
- 1998
- 同 主任研究員(現職)
- 2009
- 科学技術振興機構 ERATO 研究総括(現職)
研究概要
糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカン等の複合糖質は構成成分として糖が連なった糖鎖と呼ばれる部分を有している。糖鎖は細胞間の認識、分化やがん化等の細胞レベルでの生命現象と密接に関連していることが知られている。また、タンパク質の活性制御、安定化、フォールディング、輸送、分解過程においても重要な役割を担っていることも明確になりつつある。複雑で多様性に富んだ糖鎖の構築は生物学との境界領域の研究対象としても注目されており、有機合成化学の見地からも興味深い課題である。当研究室では、これらの背景をもとに複合糖質特に糖タンパク関連分子の精密合成、それに関連する分子プローブの創製に有効な新規反応や合成戦略、を中心に研究を行っている。主要研究テーマは、(1)新たな合成手法の開発と複合糖質関連分子プローブの創製、(2)複合糖質の生物機能解明と新規生物活性物質の創製をめざす合成研究、(3)合成化学的手法による糖タンパク質細胞内動態の解明、(4)糖鎖結合分子の認識機構解析の4点である。
最近の研究成果
小胞体のイベントを有機化学で解き明かす

- 図1 小胞体における糖タンパク質フォールディング機構
- 小胞体内糖タンパク質品質管理機構には様々な糖鎖認識分子が関わっている。本研究は合成した糖鎖を用いて、この過程の明確な解析を目指すものである。これまでにCalnexin/Calreticulin、UGGT、Glucosidase IIなどを対象とし、人工基質を用いた定量的解析を行っている。
タンパク質の大部分は正しい三次元構造を獲得して初めて機能を発揮する。これを制御する過程はタンパク質の「品質管理機構」と呼ばれる。ヒトをはじめとする真核生物細胞の小胞体においては、様々な分子がこの過程に関与している。多彩な糖タンパク質糖鎖機能の中で、小胞体における品質管理機構は、細胞活動の根幹部分への関与を示すものとして強いインパクトを与えている。
ところで、この分野における従来の研究は、構造の不明確な基質を用いて行なわれてきたものが殆どであることから、詳細については大部分が不明であり様々な見解の不一致も見られる。それに対し我々は、合成糖鎖、糖タンパク質を自在に造り出す手法を推進力として糖タンパク質品質管理の分子機構について明確な理解を得ることを目指して研究を行っている。
我々はまず、小胞体内のシャペロンであるカルネキシン(CNX)およびカルレティキュリン(CRT)が認識する高マンノース型モノグルコシル化12糖の初の化学合成を達成した。本合成は我々が開発した立体選択的グリコシル化反応など、独自の手法を駆使して行ったものである。更に、NMRを用いて、カルレティキュリンと糖鎖の構造特異的相互作用を観測した。続いて、高マンノース型糖鎖として最も複雑なトリグルコシル化14糖をはじめ、全ての小胞体型糖鎖の合成を達成した。
小胞体内においてUDP-グルコース:糖タンパク質グルコース転移酵素(UGGT)は糖タンパク質フォールディングセンサーとして重要な機能を担っている。我々はUGGTの初の非タンパク型基質の開発に成功した。これにより、UGGTの糖鎖特異性をはじめとする様々な性質が明らかになった。この研究はその後蛍光性UGGT基質の開発に発展し、基質認識能の解明に向けた研究が進んでいる。
一方、グルコシダーゼII(G-II)は小胞体内において新生糖タンパク質のフォールディング過程への出入を制御する重要な酵素である。我々は、合成した糖鎖-MTX複合体を用いて、G-IIの糖鎖構造に対する特異性を調べた。その結果、G-IIが触媒する2つの反応のうち1段階目が2段階目に比べて迅速に進行すること、2段階目の反応がCRTによって阻害されることを示した。また、従来曖昧であったG-IIの糖鎖特異性を解明した。本研究はその後分子クラウディング条件下でのG-IIの反応性変化、詳細な速度論的解析、サブユニットの機能解析へと発展している。
上記研究の詳細は総説[Y. Takeda, et al. Curr. Opin. Chem. Biol. 2009, 13, 582]をご参照いただきたい。

- 図2 糖鎖プローブの合成研究
- 本研究に必要となる「高マンノース型」糖鎖の系統的合成法を開発し、様々な形のプローブへと変換する手法を確立した。

- 図3 合成基質によって初めて明らかになったUGGTの特異性
- UGGTの人工基質(M9-MTX)の開発に成功した。この化合物は従来用いられて来た糖タンパク質基質(Tg-denatured)に匹敵する反応性を持っていた。これを契機として、UGGTの糖鎖特異性が明らかとなった。
- 図2, 3
- Reproduced, with permission, from Y. Takeda, K. Totani, I. Matsuo, Y. Ito, Chemical approaches toward understanding glycan-mediated protein quality control, Curr. Opin. Chem. Biol. 2009, 13, 582. © (2012) Elsevier
主要論文
- A. Ishiwata, Y. Ito, Synthesis of docosasaccharide arabina motif of mycobacterial cell wall, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 2275.
- K. Totani, Y. Ihara, T. Tsujimoto, I. Matsuo, Y. Ito, The recognition motif of the folding-sensor enzyme UDP-Glc:glycoprotein glucosyltransferase, Biochemistry 2009, 48, 2933.
- S. Manabe, K. Ishii, D. Hashizume, H. Koshino, Y. Ito, Evidence for endocyclic cleavage of conformationally restricted glycopyranosides, Chem. Eur. J. 2009, 15, 6894.
- T. Watanabe, et al. Genetic analysis of glucosidase II β-subunit in trimming of high-mannose-type glycansm, Glycobiology 2009, 19, 834.
- Y. J. Lee, A. Ishiwata, Y. Ito, Stereoselective Synthesis of β-L-Rhamnopyranosides, J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 6330.
- K. Totani, Y. Ihara, I. Matsuo, Y. Ito, Effects of macromolecular crowding on glycoprotein processing enzymes, J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 2101.
- S. Manabe, K. Ishii, Y. Ito, N-Benzyl-2,3-oxazolidinone as a glycosyl donor for selective a-glycosylation and one-pot oligosaccharide synthesis involving 1,2-cis-glycosylation, J. Am. Chem. Soc. 2006, 130, 10666.
- A. Ishiwata, H. Akao, Y. Ito, Stereoselective Synthesis of a Fragment of Mycobacterial Arabinan, Org. Lett. 2006, 24, 5525.
- K. Totani, I. Matsuo, Y. Ihara, Y. Ito, Substrate specificity analysis of endoplasmic reticulum glucosidase II using synthetic high-mannose-type glycans, J. Biol. Chem. 2006, 281, 31502.
- K. Totani, Y. Ihara, I. Matsuo, H. Koshino, Y. Ito, Synthetic substrates for an endoplasmic reticulum protein-foliding sensor, UDP-glucose:glycoprotein glucosyltransferase, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 7950.
主要メンバー
| 主宰者 |
|
|
add |
delete |
| 伊藤 幸成 |
Yukishige Ito |
主任研究員 |
|
|
| スタッフ研究員 |
|
|
add |
delete |
| 眞鍋 史乃 |
Shino Manabe |
専任研究員 |
|
|
| 石渡 明弘 |
Akihiro Ishiwata |
専任研究員 |
|
|
| 中川 優 |
Yu Nakagawa |
専任研究員 |
|
|
| 相川 順一 |
Junichi Aikawa |
先任研究員 |
|
|
| 坂本 康治 |
Yasuharu Sakamoto |
先任研究員 |
|
|
| ポスドク |
|
|
add |
delete |
| ディナナス・バブロウ・フルセ |
Dinanath Baburao Fulse |
国際特別研究員 |
|
|
| 相原 義之 |
Yoshiyuki Aihara |
特別研究員 |
|
|