田原分子分光研究室

主任研究員

田原 太平

  • Tahei Tahara
  • 理学博士
  • 田原 太平
  • 略歴
    1989
    東京大学大学院理学系研究科化学専攻 博士課程修了
    1989
    東京大学理学部化学教室 助手
    1990
    神奈川科学技術アカデミー 極限分子計測プロジェクト 研究員
    1995
    分子科学研究所 助教授
    2001
    理化学研究所 田原分子分光研究室 主任研究員(現職)

研究概要

田原分子分光研究室

分光計測は21世紀の科学の「目」であり、物理~化学~生物学にわたるきわめて広い分野の基盤となっている。我々は新しい極限的な分子分光計測を開発し、それらを駆使して凝縮相複雑系に対する分子科学研究を推進している。凝縮相における多種多様なダイナミクスを解明するためには、分子の電子状態や振動状態、周辺場の応答、あるいはそれらの背景にあるエネルギーの揺動や散逸を分子レベルで総合的に理解しなければならない。これを念頭におき、最も先端的な線形・非線形分光計測法を用い、個々の問題に本質的な時間・空間スケールを選択して研究を進めている。具体的には、短パルスレーザー技術をもとに、(1)極限的時間分解分光による超高速分子現象の解明と制御、(2)新しい非線形分光を用いたソフト界面の研究、(3)複雑分子系のフェムト秒~ミリ秒ダイナミクスの観測を行っている。1では溶液中の基本分子のダイナミクス、2では気液界面、液液界面、固液界面、脂質膜等の生物学的界面にある分子の振舞い、3では生体高分子の揺らぎと機能を対象として研究を行っている。

最近の研究成果

光の位相を検出して界面の分子を探る

界面選択的な二次の非線形分光の原理と装置:ヘテロダイン和周波分光
界面選択的な二次の非線形分光の原理と装置:ヘテロダイン和周波分光
図1 界面選択的な二次の非線形分光の原理と装置:ヘテロダイン和周波分光

界面における分子の振舞いを理解することは、基礎科学の観点のみならず応用面からも大変重要である。界面の分子は2つの全く性質の異なる相に挟まれるという特殊な環境下に在って、気体中、液体中、固体中のような単なる均一な環境下とは異なる振舞いを示す。しかしながら、未だ界面にある分子の性質や機能に関してはわからない事が大変多い。高い強度を持つレーザーを用いた二次非線形分光法は、分子1~2個相当の厚みしかない非常に薄い界面領域を選択的に観察できる計測法として強力である。我々はフェムト秒レーザー技術をベースに、新しい界面選択的非線形分光計測を開発して界面の研究を進めている。特に我々が開発したヘテロダイン和周波分光法は、これまでには得られなかった界面分子の電子状態と振動状態の情報を与えてくれる強力な計測法である。この方法では、狭帯域で振動数ω1をもつレーザーパルスと広帯域で振動数ω2をもつレーザーパルスの2つを同時に界面に照射し、振動数ω1+ω2を持つ信号光を広いエネルギー範囲で一度に発生させる。さらにこの信号光を別に発生させた参照光と光の位相関係を確定させた上で重ね合わせ、その干渉成分を測定することで、非線形信号の位相情報を保ったまま、一度に界面分子の電子スペクトルや振動スペクトルを測定する(図1)。このヘテロダイン和周波分光によって、界面分子の状態や構造、さらには絶対配向を自在に調べることができるようになった。例えば、入射する光の振動数ω1とω2の和を界面分子の電子遷移に共鳴させることで、水と空気の界面に在るクマリン分子の電子スペクトルを測定したところ、界面でのスペクトルは水中で観測されるスペクトルと無極性溶媒中で測定されるスペクトルの中間のエネルギー領域に現れることがわかった(図2)。これは、空気/水の界面で、クマリン分子の半分が水に溶媒和され、残りの半分は空気側に露出しているという、「半溶媒和」された状態であることを端的に示している。また、ω2に赤外光を用いて界面にある水分子を振動スペクトルによって調べたところ、帯電した水の界面では、表面電荷の正負を変えるとそれに応じて信号光の位相が逆転し、これを反映してスペクトルの正負が変わることがわかった。これは界面近傍の水の配向の逆転が起きたことを示しており、これによって帯電した界面での水のフリップ-フロップモデルが初めて直接的に実証された(図3)。このように我々の開発した新しい非線形分光計測は、これまで観測することのできなかった界面現象の観測を可能とし、気液界面、液液界面、固液界面、生物学的界面の性質と機能の解明に威力を発揮する。

空気/水界面のクマリン色素の電子スペクトル(赤)
図2 空気/水界面のクマリン色素の電子スペクトル(赤)
比較のために水中(青)と無極性溶媒中(ブチルエーテル:緑)での吸収スペクトルを示してある。挿入図は分子動力学計算から得られた空気/水界面での「半溶媒和」の様子。
帯電した水界面のOH伸縮振動領域の振動スペクトル
図3 帯電した水界面のOH伸縮振動領域の振動スペクトル
界面活性剤をSDSからCTABに変えることで界面の電荷の符号がマイナスからプラスへ変わり、それに対応して振動スペクトルの符号が逆転している。これは界面での水分子の配向が逆転したことを示している。

主要論文

  1. M. Iwamura, H. Watanabe, K. Ishii, S. Takeuchi, T. Tahara, Coherent nuclear dynamics in ultrafast photoinduced structural change of bis(diimine) copper(I) complex, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 7728.
  2. J. A. Mondal, S. Nihonyanagi, S. Yamaguchi, T. Tahara, Structure and orientation of water at charge lipid monolayer/water interfaces probed by heterodyne-detected vibrational sum frequency generation spectroscopy, J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 10656.
  3. S. Nihonyanagi, S. Yamaguchi, T. Tahara, Water hydrogen bond structure near highly charged interfaces is not like ice, J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 6867.
  4. K. Ishii, T. Tahara, Resolving inhomogeneity using lifetime-weighted fluorescence correlation spectroscopy, J. Phys. Chem. B 2010, 114, 12383.
  5. S. Sen, S. Yamaguchi, T. Tahara, Different Molecules Experience Different Polarity at the Air/Water Interface, Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6439.
  6. S. Nihonyanagi, S. Yamaguchi, T. Tahara, Direct Evidence for Orientational Flip-Flop of Water Molecules at Charged Interfaces: A Heterodyne-Detected VSFG Study, J. Chem. Phys. 2009, 130, 204704.
  7. S. Takeuchi, et al. Spectroscopic Tracking of Structural Evolution in Ultrafast Stilbene Photoisomerization, Science 2008, 322, 1073.
  8. S. Yamaguchi, T. Tahara, Heterodyne-detected electronic sum frequency generation: “Up” vs “down” alignment of interfacial molecules, J. Chem. Phys. 2008, 129, 101102.
  9. S. Yamaguchi, T. Tahara, χ(4) Raman Spectroscopy for Buried Water Interfaces, Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 7609.
  10. M. Iwamura, S. Takeuchi, T. Tahara, Real-Time Observation of the Photoinduced Structural Change of Bis-2,9-dimethyl-1,10-phenanthroline Copper (I) by Femtosecond Fluorescence Spectroscopy: A Realistic Potential Curve of the Jahn-Teller Distortion, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 5248.

主要メンバー

主宰者 add delete
田原 太平 Tahei Tahara 主任研究員    
スタッフ研究員 add delete
大澤 正久 Masahisa Osawa 専任研究員    
竹内 佐年 Satoshi Takeuchi 専任研究員    
山口 祥一 Shoichi Yamaguchi 専任研究員    
石井 邦彦 Kunihiko Ishii 研究員    
二本柳 聡史 Satoshi Nihonyanagi 基幹研究所研究員(超高速分子マニピュレーション研究チーム 基幹研究所研究員)    
ポスドク add delete
プラサント・チャンドラ・シン Prashant Chandra Singh 国際特別研究員    
マシュー・マカラ・サーティン Matthew Mc Cullough Sartin 国際特別研究員 2012.4.1  
ジェンロン・ウェイ Zhengrong Wei 特別研究員    
服部 達哉 Tatsuya Hattori 特別研究員    
乙須 拓洋 Takuhiro Otosu 特別研究員    
マシュー・マカラ・サーティン Matthew Mc Cullough Sartin 特別研究員   2012.3.31
シュブディップ・ゴッシュ Subhadip Ghosh 特別研究員    
アニルダ・アドヒカリ Aniruddha Adhikari 訪問研究員    
アントン・ミヤリトシン Anton Myalitsin 訪問研究員    
学生・研究生 add delete
倉持 光 Hikaru Kuramochi 大学院生リサーチ・アソシエイト    
松﨑 維信 Korenobu Matsuzaki 大学院生リサーチ・アソシエイト    
アチンチャ・クンデュ Achintya Kundu 国際プログラム・アソシエイト    
技術系アシスタント add delete
事務系アシスタント add delete
客員研究員・客員技師 add delete
その他のスタッフ add delete

()は理研内本務先。

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