

当研究室では、固体中の互いに強く絡み合う電子(強相関電子)が演出する多彩な電子相、たとえば新奇な超伝導・量子磁性などを開拓し、その背後にある基礎学理の解明を目指している。当面の研究の舞台はd軌道やf軌道の電子が主役を担う遷移金属酸化物や希土類化合物などである。強相関電子系の特徴的な物性である磁性の枠に留まらず、磁性と伝導性、結晶格子効果などが競合/協奏して生じる複合的かつより高度な電子相・機能に重点を置いて研究を進めている。また、物性・機能開拓、学理解明と並行して、電子相の局所磁性や電子状態を探るための計測技術の開発も行っている。
現在進行中の主なテーマは、鉄砒素系新奇超伝導体の機構解明、新超伝導体・熱電変換材料の探索、量子スピン液体の物理、スピン軌道相互作用誘起物性の開拓、単一スピン検出プローブの開発などである。

我々は高温超伝導体の機構解明、スピン軌道相互作用に誘起された新奇物性の開拓、電子蓄熱材料の開拓、超高圧合成や薄膜合成を駆使した新物質の開拓などを行っている。その中で、(I)鉄系超伝導体の特異な超伝導電子対状態の発見、(II)スピン軌道相互作用が誘起する新奇電子相の開拓、の二つのトピックについて述べる。
(I)鉄系超伝導体の特異な超伝導電子対状態の発見
2008年に見出された鉄系超伝導体は、転移温度が55Kに達する高温超伝導体であり、その発現機構が興味の焦点である。この物質のFermi面は電子ポケットと正孔ポケットで構成され、ポケット間のネスティングによる反強磁性ゆらぎが電子対形成に重要であると考えられている。この場合、超伝導ギャップは全てのポケット上で等方的でありながら、電子ポケットとホールポケットで符合が反転した、いわゆるs±波となるはずである。その実験的検証に多くの研究者が挑んできたが、s±波ギャップの検出には波数弁別性と位相敏感性の両方が必要なため、決定的な証拠が得られずにいた。我々は、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いた分光イメージングにより超伝導状態における準粒子の干渉パターンの磁場中での強度変化を調べ、コヒーレンス因子を通して位相の情報を得ることを試みた。Fe(Se,Te)単結晶に対する実験により、トンネルスペクトルには明瞭な超伝導ギャップが観測された。Fermiエネルギー近傍には低エネルギー励起が存在せず、ギャップの振幅がほぼ等方的であることが分かった。また、干渉パターンはFermiポケット間散乱から期待されるものと一致した。磁場を印加すると、電子ポケットとホールポケットを繋ぐ散乱に起因する干渉パターンは抑制され、電子ポケット同士を繋ぐ散乱の振幅は増大することが分かった。この結果はs±波超伝導の世界初の実験的証拠を与える[T. Hanaguri, et al. Science 2010, 328, 474]。一連の鉄系材料の超伝導が反強磁性ゆらぎ機構によって発現していることが強く示唆された。
(II)スピン軌道相互作用が誘起する新奇電子相の開拓
スピン軌道相互作用はスピンホール効果、トポロジカル絶縁体といった新現象の起源であることから、今日の物性物理の重要なキーワードの一つとなっている。我々はSPring-8の放射光を利用した共鳴X線磁気回折を行い、層状イリジウム酸化物Sr2IrO4においてスピン軌道相互作用が新タイプのモット絶縁体状態をもたらすことを見出した[B. J. Kim, et al. Science 2009, 323, 1329]。このような状態にフラストレーションと呼ばれる特異な結晶構造の幾何学特徴が加わると、相関トポロジカル絶縁体と呼ぶべき、さらに新奇な電子相が発現するとされている。そこでは室温の量子スピンホール効果も出現しうるとされる。新物質の開拓を狙い、エピタキシャル薄膜法による新規イリジウム酸化物の探索を行った。その結果、新物質Ir2O4の合成に成功した。この物質はAサイトが完全に欠損したスピネル構造を形成する。同じ化学組成をもつルチル型IrO2と対照的に、絶縁体的な挙動を示した。スピネル構造(パイロクロア格子)は幾何学的フラストレーションの舞台であるため、強い量子磁性の観点からユニークな舞台を提供する。室温スピン量子ホール効果の検証への展開も始まりつつある。その他にもハニカム型Na2IrO3などの新物質を薄膜の形で合成した。


| 主宰者 | add | delete | ||
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| 髙木 英典 | Hidenori Takagi | 主任研究員(電子複雑系機能材料研究グループ グループディレクター) |
| スタッフ研究員 | add | delete | ||
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| 山崎 展樹 | Hiroki Yamazaki | 専任研究員 | ||
| 花栗 哲郎 | Tetsuo Hanaguri | 専任研究員 | ||
| 松野 丈夫 | Jobu Matsuno | 専任研究員 | ||
| 藤山 茂樹 | Shigeki Fujiyama | 専任研究員 | ||
| アリマミィ・フォーキー・バングラ | Alimamy Forkie Bangura | 研究員 | ||
| 新髙 誠司 | Seiji Niitaka | 基幹研究所研究員(無機電子複雑系研究チーム 基幹研究所研究員) | ||
| 幸坂 祐生 | Yuhki Kohsaka | 基幹研究所研究員(無機電子複雑系研究チーム 基幹研究所研究員) | ||
| 山本 文子 | Ayako Yamamoto | 基幹研究所研究員(無機電子複雑系研究チーム 基幹研究所研究員) |
| ポスドク | add | delete | ||
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| 岡本-桂 ゆかり | Yukari Okamoto-Katsura | 基礎科学特別研究員 | ||
| 付 英双 | Yingshuang Fu | 国際特別研究員 |
| 学生・研究生 | add | delete |
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| 技術系アシスタント | add | delete |
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| 事務系アシスタント | add | delete |
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| 客員研究員・客員技師 | add | delete |
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| その他のスタッフ | add | delete |
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()は理研内本務先。