小林脂質生物学研究室

主任研究員

小林 俊秀

  • Toshihide Kobayashi
  • 薬学博士
  • 小林 俊秀
  • 略歴
    1983
    東京大学大学院薬学系研究科生命薬学専攻 博士課程修了
    1999
    理化学研究所 フロンティアスフィンゴ脂質機能研究チーム チームリーダー
    2003
    同 小林脂質生物学研究室 主任研究員(現職)
    2007
    埼玉大学大学院理工学研究科 教授(現職)

研究概要

小林脂質生物学研究室

生体膜の基本構造である脂質二重層構造は、たった1種類の脂質分子を用いただけで再現することができる。それにもかかわらず、自然界には数千の脂質分子が存在している。異なった生物、異なった臓器は特徴的な脂質組成を示し、また、異なった細胞は異なった脂質組成を持っている。脂質組成は、オルガネラ間でも違っており、さらに生体膜の脂質二重層の内層と外層の間でも異なっている。形質膜の外層だけを見ても、脂質は決して均一に分布しているのではなく、特定の脂質によるドメインが形成されていると考えられる。

このような脂質の特徴的な分布には、それぞれの脂質の合成、分解、輸送、拡散の動的平衡の上に維持されている。なぜこのような複雑な脂質組成、分布を選択したかについては、明確な回答は得られていないが、最近注目されている一つの答えは、脂質ラフトに代表される脂質超分子集積の再発見である。ここでは、特定の脂質が集積すること自体が、細胞の機能に直結する。言い換えれば、膜の構築そのものが機能を持っている。

当研究室は、脂質超分子構造のアッセンブリーのメカニズム、構成脂質の動態および機能を「脂質を見る」ことによって明らかにし、生体膜の構築原理を知ることを目的としている。

最近の研究成果

脂質ラフトは存在するか?

ライセニンの膜への結合様式
図1 ライセニンの膜への結合様式
スフィンゴミエリン(SM)と「やわらかい」ホスファチジルコリン(ジオレオイルホスファチジルコリン、DOPC)(上段)、および「かたい」ホスファチジルコリン(ジパルミトイルホスファチジルコリン、DPPC)(下段)から成る人工膜を調製し、GFP-ライセニン(Venus-Lysenin)(右)の結合を見た。Venus-Lyseninはやわらかい膜に存在するスフィンゴミエリンには結合するが、かたい膜中のスフィンゴミエリンには結合しない。やわらかい膜ではスフィンゴミエリンはクラスターを形成している(上図中央および左のモデル図。中央の図で赤はスフィンゴミエリンに富んだかたい膜を、緑はDOPCに富んだやわらかい膜の分布を示す。左の図はスフィンゴミエリン(オレンジ)のクラスター形成を模式的に示している)。一方、かたい膜中ではスフィンゴミエリンはDPPCと良く混ざるため、分散して存在していると考えられる(下図中央および左のモデル図)。
細胞膜脂質ドメインの不均一性
細胞膜脂質ドメインの不均一性
図2 細胞膜脂質ドメインの不均一性
Jurkat細胞を無毒化したライセニン(HmV-NT-Lys)およびコレラ毒素Bサブユニット(CTxB)で二重標識した。蛍光顕微鏡では細胞は一様に染まるが(左上図)、電子顕微鏡観察ではライセニン(上図左:5 nmの金コロイドで標識。上図右では赤くマーク)とコレラ毒素(上図左:10 nmの金コロイドで標識。上図右では青くマーク)の形成するドメインは異なっている。(下図)RipleyのK関数処理によりライセニン(Sphingomyelin)およびコレラ毒素(GM1)はそれぞれドメインを形成しているが、ライセニンとコレラ毒素とはドメインを形成しないことがわかる。

生体膜を形成している脂質は数千種類に及ぶ。これらの脂質は膜上でランダムに分布しているのではなく、特定の脂質が作るナノメートルスケールのドメインが細胞の機能に重要な役割を果たしている、と現在考えられている。このようなアイデアの根拠のひとつ(であり多く)はナノメートルスケールのタンパク質の分布が脂質(主にコレステロール)によって影響を受ける、という観察結果に拠っている。特定の脂質に結合するタンパク質を用いて電子顕微鏡レベルで脂質分布を直接見る、という数少ない成功例はナノメートルレベルで脂質分布に不均一性があることを支持するものだが、「コレステロール感受性」の本質は何か、ということは良くわかっていない。

細胞膜の外層と内層の脂質分布が異なっていることは赤血球を用いて生化学的手法によって良く調べられている。しかし生化学的手法によって脂質の非対称性を調べることのできる膜の種類は限られている。

「生体膜ナノドメインがわかる」ためにはナノメートルスケールでの生体膜内外層での脂質分布の時間変化がわかることが必要である。生体膜ナノドメインに関する我々の現在の理解は非常に限られたものであり、本質的な理解は「しっかりと観察する」ことによって初めて可能になる。このためには「脂質を見る」ための道具の開発と手法の開発が求められる。

我々はこれまで脂質に対する抗体や毒素タンパク質、ペプチド、低分子等を脂質を見る道具として解析してきた。これらの物質と脂質との反応は複雑で、脂質の認識は脂質の集合状態、膜の曲率等様々な因子が影響する。シマミミズ由来の毒素タンパク質であるライセニンはスフィンゴミエリンのクラスターに特異的に結合する(図1)。図2は糖脂質GM1に特異的に結合するコレラ毒素とライセニンを用いて細胞表面に2つの異なった脂質ドメインが存在することを示している。

生体膜ナノドメインのなかでも特に注目を集めている脂質ラフトの形成と維持にはコレステロールが重要な役割を果たしていると考えられる。我々は比較的低分子で毒性が低く、コレステロールを認識する分子をスクリーニングしている過程で、ポリエチレングリコールコレステロールエーテル(PEG-Chol)がコレステロールを含む膜に親和性があることを見出した。コレステロールは膜の表側にも裏側にも存在すると考えられるが、PEG-Cholはポリエチレングリコールが結合しているためフリップフロップできず、細胞表層のコレステロールに富んだ膜の動態を追うことができる。

コレステロールを認識する物質としてはPEG-Cholのほか抗生物質のフィリピン、ステロール結合性毒素等が知られている。フィリピンとステロール結合性毒素では結合に必要なコレステロールの膜濃度の域値に差があり、これを利用して細胞表面のコレステロールの濃度勾配を定性的に知ることができる。このような実験からコレステロールに富む膜ドメインとアクチン骨格とが相互作用していることが示唆された。

特定の脂質に結合する物質は少なく、十分にキャラクタライズされているタンパク、ペプチド、低分子等は限られている。これら脂質プローブの開発は脂質ナノドメインをわかるためには必須のプロセスである。一方で脂質プローブに頼らない、脂質を直接観察する手法がどこまでナノドメインに迫れるのかについても検討していく必要があることは言うまでもない。

主要論文

  1. M. Abe, et al. A role for sphingomyelin-rich lipid domains in the accumulation of phospatidylinositol-4,5-bisphosphate to the cleavage furrow during cytokinesis, Mol. Cell. Biol. 2012, in press.
  2. H-H. Tan, A. Makino, K. Sudesh, P. Greimel, T. Kobayashi, Spectroscopic evidence for the unusual stereochemical configuration of an endosome-specific lipid, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2012, 51, 533.
  3. R. Ishitsuka, T. Saito, H. Osada, Y. Ohno-Iwashita, T. Kobayashi, Fluorescence image screening for chemical compounds modifying cholesterol metabolism and distribution. J. Lipid Res. 2011, 52, 2084.
  4. M. Murate, et al. Phosphatidylglucoside forms specific lipid domains on the outer leaflet of the plasma membrane, Biochem. 2010, 49, 4732.
  5. T. Hayakawa, et al. pH-dependent formation of membranous cytoplasmic body-like structure of ganglioside GM1/bis(monoacylglycero)phosphate mixed membranes, Biophys. J. 2007, 92, L13.
  6. M. Takahashi, et al. Cholesterol controls lipid endocytosis through Rab11, Mol. Biol. Cell 2007, 18, 2667.
  7. K. Iwamoto, et al. Curvature-dependent recognition of ethanolamine phospholipids by duramycin and cinnamycin, Biophys. J. 2007, 93, 1608.
  8. F. Hullin-Matsuda, et al. De novo biosynthesis of the late endosome lipid, bis(monoacyl- glycero)phosphate, J. Lipid Res. 2007, 48, 1997.
  9. E. Kiyokawa, et al. Spatial and functional heterogeneity of sphingolipid-rich membrane domains, J. Biol. Chem. 2005, 280, 24072.
  10. R. Ishitsuka, A. Yamaji-Hasegawa, A. Makino, Y. Hirabayashi, T. Kobayashi, A lipid-specific toxin reveals heterogeneity of sphingomyelin-containing membranes, Biophys. J. 2004, 86, 296.
  11. S. Sato, et al. Distribution and transport of cholesterol-rich membrane domains monitored by a membrane-impermeant fluorescent polyethylene glycol-derivatized cholesterol, J. Biol. Chem. 2004, 279, 23790.
  12. A. Yamaji-Hasegawa, et al. Oligomerization and pore formation of a sphingomyelin-specific toxin, lysenin, J. Biol. Chem. 2003, 278, 22762.

主要メンバー

主宰者 add delete
小林 俊秀 Toshihide Kobayashi 主任研究員    
スタッフ研究員 add delete
長谷川-山路 顕子 Akiko Hasegawa-Yamaji 専任研究員    
石塚 玲子 Reiko Ishitsuka 専任研究員    
山田 太郎 Taro Yamada 専任研究員    
ペーター・グライメル Peter Greimel 研究員    
阿部 充宏 Mitsuhiro Abe 研究員    
ポスドク add delete
岸本 拓磨 Takuma Kishimoto 基礎科学特別研究員    
稲葉 岳彦 Takehiko Inaba 基礎科学特別研究員    
村手 源英 Motohide Murate 協力研究員    
冨重 斉生 Nario Tomishige 協力研究員    
牧野 麻美 Asami Makino 特別研究員    
ネバル・イルマッツ Neval Yilmaz 特別研究員    
酒井 祥太 Shota Sakai 特別研究員    
学生・研究生 add delete
内田 安則 Yasunori Uchida ジュニア・リサーチ・アソシエイト    
ヘマ・バラクリシュナ・バット Hema Balakrishna Bhat 国際プログラム・アソシエイト    
フイフイ・タン Hui Hui Tan 国際プログラム・アソシエイト    
技術系アシスタント add delete
瀬野尾 幸子 Yukiko Senoh テクニカルスタッフⅠ    
事務系アシスタント add delete
客員研究員・客員技師 add delete
その他のスタッフ add delete
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