眞貝細胞記憶研究室

主任研究員

眞貝 洋一

  • Yoichi Shinkai
  • 医学博士
  • 眞貝 洋一
  • 略歴
    1990
    順天堂大学大学院医学研究科 博士課程修了
    1990
    米国 コロンビア大学医学部 博士研究員
    1991
    米国 ハーバード大学医学部 博士研究員
    1995
    株式会社日本ロシュ研究所 主任研究員
    1998
    京都大学ウイルス研究所 助教授
    2003
    京都大学ウイルス研究所 教授
    2011
    理化学研究所 眞貝細胞記憶研究室 主任研究員(現職)

研究概要

眞貝細胞記憶研究室

当研究室は、エピジェネティクス制御の観点から生命現象を理解することを目標に研究を行っている。ヒストンの翻訳後修飾、特にヒストンリジン残基のメチル化制御は遺伝子の発現だけでなくDNAの修復さらにはクロマチンの構造や安定性にも重要な役割を持つ。この分子基盤を明らかにすることから、モデル動物を用いて生体内の様々な生命機能における役割を明らかにし、エピジェネティクス制御不全の視点から疾患を理解する。また、エピジェネティクス制御機構をコントロールする新たな手法の開発にも取り組んでいる。

最近の研究成果

ヒストンリジンメチル化酵素ESETによる内在性レトロウイルスの発現抑制

ヒストンメチル化酵素ESETによる内在性レトロウイルスの転写抑制機構
図1 ヒストンメチル化酵素ESETによる内在性レトロウイルスの転写抑制機構

ヒトをはじめとして哺乳類のゲノムの少なくとも50%以上の領域は、遺伝子をコードしない反復配列によって占められている。この反復配列のほとんどはゲノムを飛び回る能力を持っていた転移因子に由来しており、内在性レトロウイルスはその1つのグループを構成するlong terminal repeat(LTR)型のレトロ転移因子で、ヒトではゲノムの~8%を占める。マウスでは、レトロ転移因子はまだ活発に活動しているものが残っており、マウスの突然変異の10%までは内在性レトロウイルスの転移によると言われている。このようないわゆる利己的な遺伝子の進入と増幅を防ぐために、生体には様々な抑制機構が存在する。そのひとつにレトロ転移因子の遺伝子発現抑制機構があり、体細胞や生殖細胞においては宿主ゲノムに取り込まれたレトロウイルス(プロウイルス)の発現抑制にはDNAのメチル化が重要であり、LTR部分のDNAのメチル化レベルが低下すると、プロウイルスの発現が上昇する。ところが、胚性腫瘍(embryonic carcinoma:EC)細胞や胚性幹(embryonic stem:ES)細胞などのような発生初期の胚から樹立された細胞株では、DNAのメチル化に非依存的な、特別なプロウイルスの発現抑制機構が存在することが30年以上も前から知られていた。しかし、その詳細なメカニズムは良くわかっていなかった。

我々は最近、この発生初期の細胞で特異的に機能しているプロウイルスの発現抑制機構に、ヒストンリジンメチル化酵素ESET/SETDB1が非常に重要な役割を持つことを明らかにした[T. Matsui, et al. Nature 2010, 464, 927]。ESETはヒストンの特異的なアミノ酸(ヒストンH3の9番目のリジン残基:H3K9)をメチル化する活性を持ち、ESETをコードする遺伝子を条件的に欠失できるES細胞の解析から、ESETを除去すると内在性レトロウイルスの発現レベルが著しく上昇した。そして、内在性レトロウイルスのLTRプロモーター領域のH3K9はESET依存的にトリメチル化されていることも判明した。また、ESETはプロウイルスのLTR領域にKAP1と呼ばれる分子に依存して導かれることも明らかとなった。さらに、ES細胞におけるプロウイルスの発現抑制には、ESETのヒストンメチル化活性は重要であるものの、DNAのメチル化は必ずしも必要でないことが分かった。以上のことから、ESETは、DNAのメチル化状態がダイナミックに変化する胚発生初期の細胞で、DNAのメチル化非依存的に、プロウイルスの発現抑制に寄与していることが示唆された。

次世代シークエンサーを用いたRNAseq解析により、さらに興味ある知見が得られた[MM. Karimi, et al. Cell Stem Cell 2011, 8, 676]。ESET欠失マウスES細胞では、内在性レトロウイルスの発現誘導に伴い、近傍の遺伝子の発現にも影響を与え、内在性レトロウイルスとの融合転写産物が幾つも発現してくることが明らかとなった。つまり、ESETによるエピジェネティク制御は、内在性レトロウイルスによる二次的な影響を抑え込むためにも働いていることが示された。

Eset KO ES細胞で特異的に誘導された内在性レトロウイルス(ERV)と近傍の遺伝子の融合転写産物
図2 Eset KO ES細胞で特異的に誘導された内在性レトロウイルス(ERV)と近傍の遺伝子の融合転写産物
ヒストンメチ化酵素G9a/GLPによる様々な生命機能制御
図3 ヒストンメチ化酵素G9a/GLPによる様々な生命機能制御
図2
Reproduced, with permission, from MM. Karimi, et al. DNA methylation and SETDB1/H3K9me3 regulate predominantly distinct sets of genes, retroelements, and chimeric transcripts in mESCs, Cell Stem Cell 2011, 8, 676. © (2012) Elsevier

主要論文

  1. MM. Karimi, et al. DNA methylation and SETDB1/H3K9me3 regulate predominantly distinct sets of genes, retroelements, and chimeric transcripts in mESCs, Cell Stem Cell 2011, 8, 676.
  2. Y. Shinkai, M. Tachibana, H3K9 Methyltransferase G9a and the Related Molecule GLP, Genes Dev. 2011, 25. 781.
  3. T. Matsui, et al. Proviral silencing in embryonic stem cells requires the histone methyltransferase ESET, Nature 2010, 464, 927.
  4. T. Inagaki, et al. Obesity and metabolic syndrome in histone demethylase JHDM2a deficient mice, Genes to Cells 2009, 14, 991.
  5. M. Tachibana, Y. Matsumura, M. Fukuda, H. Kimura, Y. Shinkai, G9a/GLP complexes independently mediate H3K9 and DNA methylation to silence transcription, EMBO J. 2008, 27, 2681.
  6. M. Tachibana, M. Nozaki, N. Takeda, Y. Shinkai, Functional dynamics of H3K9 methylation during meiotic prophase progression, EMBO J. 2007, 26, 3346.

主要メンバー

主宰者 add delete
眞貝 洋一 Yoichi Shinkai 主任研究員    
スタッフ研究員 add delete
島津 忠広 Tadahiro Shimazu 研究員    
ポスドク add delete
山田 亜夕美 Ayumi Yamada 協力研究員    
加藤 雅紀 Masaki Kato 協力研究員 2012.4.1  
学生・研究生 add delete
技術系アシスタント add delete
福田 幹子 Mikiko Fukuda テクニカルスタッフⅠ    
事務系アシスタント add delete
客員研究員・客員技師 add delete
その他のスタッフ add delete
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