吉田化学遺伝学研究室
主任研究員
吉田 稔

- 略歴
- 1986
- 東京大学大学院農学系研究科農芸化学専攻 博士課程修了
- 1986
- 東京大学農学部 助手
- 1995
- 同 助教授
- 2002
- 理化学研究所 吉田化学遺伝学研究室 主任研究員(現職)
- 2002
- 東京大学 客員教授(現職)
- 2003
- 埼玉大学 客員教授(現職)
- 2008
- 理化学研究所 ケミカルゲノミクス研究グループ
グループディレクター(現職)
- 2011
- 京都大学 客員教授(現職)
研究概要
「化学遺伝学」とは古典遺伝学における「変異」を化学物質、特に細胞機能調節物質(バイオプローブ)に置き換え、それによって引き起こされるユニークな表現型を分子のレベルで解明することを目指した新しい分子遺伝学である。バイオプローブを用いた化学遺伝学的アプローチから真核細胞の環境応答、細胞周期制御、分子認識等における新たな知見が次々と得られつつある。当研究室では、化学遺伝学をより包括的に組織化するため、ゲノミクス、プロテオミクス、インフォマティクス、分子イメージングを加えて強力な化学ゲノミクス基盤の確立を目指している。これにより天然生理活性物質の作用機序を次々と明らかにし、これまで従来知られていなかったスプライシング阻害剤などの発見につながっている。さらに、同定された標的分子の機能解析を行うとともに、これらを用いることによって生命体の増殖、複製、シグナル伝達、老化、一次および二次代謝などのより深い理解を目指している。特にタンパク質の翻訳後修飾とその相互ネットワークなどに焦点を当てて研究を行っている。
最近の研究成果
高等生物遺伝子発現の理解に道を拓くスプライシング阻害物質の発見
真核生物においてタンパク質をコードする塩基配列はイントロンによって分断されており、正しい遺伝子発現のためにはDNAから転写されたRNA前駆体(pre-mRNA)からイントロンを切り出し、エキソンを繋ぎ合わせるスプライシング反応が翻訳の前に起こらなければならない。スプライシングは2つのトランスエステル化反応からなり、細胞核内でスプライソソームと呼ばれる150以上のタンパク質と5つの核内低分子RNA(snRNA)からなる巨大分子複合体によって担われている。スプライソソームは数百塩基の長さのsnRNAにいくつかのタンパク質が結合したsnRNPからなっており、核となるsnRNAの種類によってU1、U2、U4、U5、U6の5つのsnRNPが存在する。これらのsnRNPが秩序立ってpre-mRNAに結合することによりスプライソソームが構成される。イントロン中には通常終止コドンが存在するため、pre-mRNAが細胞質で翻訳されると異常な短縮型タンパク質が生産され、生体に悪影響を及ぼすと考えられる。従ってpre-mRNAや不完全なmRNAが細胞質に流れ出ないよう、細胞はいくつかの品質管理機構を有している。
FR901464は細菌培養液から単離された強力な抗腫瘍活性であり、SV40ウイルスプロモーターの活性化と細胞周期のG1およびG2/M期の進行を阻害する天然化合物である。強力なウイルスプロモーターの活性化作用を持つにもかかわらず、逆に内在性遺伝子の発現は多くの場合強く抑制される。このような前例のない活性を持つことからFR901464の作用機序は多くの研究者の注目を集めていた。我々はFR901464とそのメチル化誘導体スプライソスタチンAがスプライシング反応の中心をになうU2 snRNP複合体の中のSF3bと特異的に結合し、スプライシング反応を阻害することを明らかにした。驚くべきことにスプライソスタチンAは、ある種のpre-mRNA前駆体の翻訳を引き起こし、異常なタンパク質の生産を誘導した。このことからスプライソスタチンAは、スプライシング反応とmRNA前駆体の核内保持を阻害する初めての阻害剤であることが判明した(図1)。
snRNPなどのスプライシング因子は、核スペックルと呼ばれる特別な場所に局在する。スプライシングの機能をアンチセンスオリゴや抗体で抑えると、核スペックルの構造が変化することが知られているが、スプライソスタチンAも同様の形態異常を引き起こした(図2)。従ってスプライソスタチンAは間違いなくスプライシングそのものと核スペックルの構築の分子機構の解析になくてはならないバイオプローブとなるであろう。

- 図1 スプライソソタチンAによるスプライシング阻害とpre-mRNA翻訳の分子機構

- 図2 核スペックルの形態(A)とスプライソソタチンAによる形態異常(B)
主要論文
- S. Nishimura, et al. Marine antifungal theonellamides targets 3beta-hydroxysterol to activate Rho1 signaling, Nature Chem. Biol. 2010, 6, 519.
- T. Schneider-Poetsch, T. Usui, D. Kaida, M. Yoshida, Garbled messages and corrupted translations, Nature Chem. Biol. 2010, 6, 189.
- K. Sasaki, T. Ito, N. Nishino, S. Khochbin, M.Yoshida, Real-time imaging of histone H4 hyperacetylation in living cells, Proc. Natl Acad. Sci. USA 2009, 106, 16257.
- A. Shirai, et al. Global analysis of gel mobility of proteins and its use in target identification, J. Biol. Chem. 2008, 283, 10745.
- Y. Dohi, et al. T. Noda, K. Igarashi, Bach1 inhibits oxidative stress-induced cellular senescence by impeding p53 function on chromatin, Nature Struct. Mol. Biol. 2008, 15, 1246.
- D. Kaida, et al. Spliceostatin A targets SF3b and inhibits both splicing and nuclear retention of pre-mRNA, Nature Chem. Biol. 2007, 3, 576.
- T. Shimazu, S. Horinouchi, M. Yoshida, Multiple histone deacetylases and the CREB-binding protein regulate pre-mRNA 3'-end processing, J. Biol. Chem. 2007, 282, 4470.
- A. Matsuyama, et al. ORFeome cloning and global analysis of protein localization in the fission yeast Schizosaccharomyces pombe, Nature Biotechnol. 2006, 24, 841.
- Y. Yoshida, et al. E3 ubiquitin ligase that recognizes sugar chains, Nature 2002, 418, 438.
- A. Matsuyama, et al. In vivo destabilization of dynamic microtubules by HDAC6-mediated deacetylation, EMBO J. 2002, 21, 6820.
主要メンバー
| スタッフ研究員 |
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| 凌 楓 |
Feng Ling |
専任研究員 |
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| 古園 さおり |
Saori Kosono |
専任研究員 |
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| 松山 晃久 |
Akihisa Matsuyama |
専任研究員 |
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| 八代田 陽子 |
Yoko Yashiroda |
専任研究員 |
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| 伊藤 昭博 |
Akihiro Ito |
専任研究員 |
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| 関戸 茂子 |
Shigeko Sekido |
専任技師 |
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| ポスドク |
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delete |
| ティルマン・ハンス ヨーク・シュナイダーポッチュ |
Tilman Hans Jorg Schneider-Poetsch |
国際特別研究員 |
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| 芳本 玲 |
Rei Yoshimoto |
特別研究員 |
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| 技術系アシスタント |
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add |
delete |
| 河村 優美 |
Yumi Kawamura |
テクニカルスタッフⅠ |
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| 橋本 敦史 |
Atsushi Hashimoto |
テクニカルスタッフⅡ(分子リガンド探索研究チーム テクニカルスタッフⅡ) |
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| 前田 里子 |
Satoko Maeda |
テクニカルスタッフⅡ(分子リガンド探索研究チーム テクニカルスタッフⅡ) |
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| 高瀬 恵 |
Megumi Takase |
テクニカルスタッフⅡ |
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| エリオット・コルビ・ブラッドシャウ |
Elliot Colby Bradshaw |
テクニカルスタッフⅡ |
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