平野染色体ダイナミクス研究室

主任研究員

平野 達也

  • Tatsuya Hirano
  • 理学博士
  • 平野 達也
  • 略歴
    1989
    京都大学大学院理学研究科生物物理学専攻 博士課程修了
    1989
    米国 カリフォルニア大学サンフランシスコ校 博士研究員/研究員
    1995
    米国 コールドスプリングハーバー研究所 助教授
    1998
    同 準教授
    2003
    同 教授
    2006
    理化学研究所 平野染色体ダイナミクス研究室 招聘主任研究員
    2007
    同 主任研究員(現職)

研究概要

平野染色体ダイナミクス研究室

染色体は、遺伝情報の継承と発現の場として働く構造体であり、あらゆる生命現象の根幹にあると言っても過言ではない。当研究室では、染色体の構築と分離に中心的な役割をもつ分子群、特にコンデンシンとコヒーシンとよばれるタンパク質複合体の解析を中心に、染色体ダイナミクスの総合的理解を目指している。多彩な実験材料(培養細胞・卵母細胞・カエル卵抽出液・バクテリア)と多角的なアプローチ(細胞生物学・生化学・構造生物学・ゲノム生物学)を組み合わせることにより、これらのタンパク質複合体の機能と制御を生体内・試験管内両面から追求するとともに、染色体構築の進化的基盤や染色体異常を伴うヒトの遺伝疾患についても解析を進めている。染色体の研究は、がん細胞の増殖機構や生殖細胞の形成を理解するための基盤を提供することから、基礎医学・臨床医学の諸分野にも大きな波及効果をもたらすことが期待される。

最近の研究成果

コンデンシンとコヒーシンによる染色体の形づくり

マウス卵母細胞における二価染色体
図1 マウス卵母細胞における二価染色体
第一減数分裂中期のマウス卵母細胞から調整した二価染色体の蛍光顕微鏡像。コンデンシンII(赤)、セントロメア(緑)、DNA(青)。

多くの真核細胞には、2つのコンデンシン複合体(コンデンシンIとII)が存在し、染色体の構築と分離の過程で中心的な役割を果たしている。両者は、2種のSMC(Structural maintenance of chromosomes)コア・サブユニットを共有するが、異なるセットのnon-SMC制御サブユニットをもつ。これら2つのコンデンシンがどのように協調して染色体を形作っているのかを明らかにする目的で、我々は、カエル卵抽出液において両者(およびコヒーシン)の存在比を正確に操作する方法を確立した。コンデンシンⅠとⅡの存在比を本来の5対1からヒト培養細胞で見られる1対1へと操作すると、染色体の形状が初期胚に特徴的な細く長いものから体細胞型の太く短いものへと変化した。また、コヒーシンは、その大半が分裂前期に染色体から解離することによってコンデンシンⅡの染色体軸への集積を促す一方で、中期染色体上に残った一部のコヒーシンはコンデンシンⅠと協調して姉妹染色分体の並列性の維持に貢献することが明らかになった。すなわち、染色体の形状は、その長軸方向と横方向の凝縮や、姉妹染色分体の接着と分割をもたらす力の精妙なバランスによって決定されているらしい[Shintomi and Hirano, 2011]。

小頭症原因タンパク質によるコンデンシンIIの制御

MCPH1はヒト小頭症(microcephaly)の原因タンパク質の一つであり、このタンパク質に変異を持つ患者由来の細胞では、分裂期に先立つG2期において時期尚早な染色体凝縮が観察される。これまでの研究から、この現象がコンデンシンII複合体の制御異常に起因することが示唆されていた。我々は、カエル卵抽出液を利用して、この可能性を検証するための無細胞系を確立することに成功した。ヒトMCPH1(全長あるいはそのN末端領域)を添加すると、抽出液中に存在するコンデンシンIIの染色体結合が特異的に阻害されることを見いだした。これらのタンパク質に小頭症の病因となるミスセンス変異を導入すると、コンデンシンIIの阻害活性は著しく損なわれた。さらにMCPH1のN末端領域を患者細胞で発現させると、G2期に観察される染色体凝縮異常は解消された。これらの結果から、MCPH1はコンデンシンIIの活性を直接的に制御することにより、G2期における時期尚早な染色体凝縮を抑制していることが示唆された[Yamashita, et al. 2011]。

減数分裂における2つのコンデンシンの動態と機能

減数分裂では、体細胞分裂と異なり、1回のDNA複製後に2回の分裂が連続して起こる。とりわけ減数第一分裂では染色体は特有な挙動を示す。すなわち、相同染色体が対合・組み換えを起こす結果、減数第一分裂中期には二価染色体が形成され、後期には(姉妹染色分体ではなく)相同染色体同士が分離する。我々は、マウスの卵母細胞をモデル系として、この過程におけるコンデンシンⅠとⅡの動態を明らかにした。第一減数分裂前期では、コンデンシンⅠとⅡの局在は対照的であり、前者は細胞質に、後者は卵核胞内に存在した。また、卵核胞が崩壊すると、第一減数分裂中期までに、コンデンシンIIが染色体の軸に集中してくるのに対して、コンデンシンIはセントロメア付近に局在し後期になって初めて染色体腕部に観察された。さらに、抗体の顕微注入による機能阻害実験から、2つのコンデンシン複合体は減数分裂期染色体の構築と分離において異なる機能を持つことが示唆された[Lee, et al. 2011]。

染色体の構築と分離の模式図
図2 染色体の構築と分離の模式図
複製された2本の染色分体(姉妹染色分体)は直ちに分かれることなく、コヒーシンの作用により互いに接着される。分裂期に入ると、一部のコヒーシンが解離すると同時に、コンデンシンが染色体に結合して凝縮が誘導され、2本の染色分体が識別可能となる(分割)。やがて、残存したコヒーシンが切断されることにより、染色分体が分離して娘細胞へと運ばれる。
コンデンシンとコヒーシンのサブユニット構成
図3 コンデンシンとコヒーシンのサブユニット構成
コンデンシン複合体は、2つのSMCサブユニット(SMC2とSMC4)と3つの制御サブユニットから成り、コヒーシン複合体は、異なるペアのSMCサブユニット(SMC1とSMC3)と2つの制御サブユニットから成る。それぞれの複合体のコアとなるSMC二量体は、ユニークなV字型構造をとる。

主要論文

  1. D. Yamashita, et al. MCPH1 regulates chromosome condensation and shaping as a composite modulator of condensin II, J. Cell Biol. 2011, 194, 841.
  2. J. Lee, S. Ogushi, M. Saitou, T. Hirano, Condensins I and II are essential for construction of bivalent chromosomes in mouse oocytes, Mol. Biol. Cell 2011, 22, 3465.
  3. K. Shintomi, T. Hirano, The relative ratio of condensin I to II determines chromosome shapes, Genes Dev. 2011, 25, 1464.
  4. J. Lee, T. Hirano, RAD21L, a novel cohesin subunit implicated in linking homologous chromosomes in mammalian meiosis, J Cell Biol. 2011, 192, 263.
  5. T. Hirano, How to separate entangled sisters: interplay between condensin and decatenase, Proc. Natl Acad. Sci. USA. 2010, 107, 18749.
  6. K. Shintomi, T. Hirano, Sister chromatid resolution: a cohesion releasing network and beyond, Chromosoma 2010, 119, 459.
  7. K. Shintomi, T. Hirano, Releasing cohesin from chromosome arms in early mitosis: opposing actions Wapl-Pds5 and Sgo1, Genes Dev. 2009, 23, 2224.
  8. T. Hirano, Let's play polo in the field of condensation, Mol Cell 2009, 34, 399.
  9. T. Hirano, At the heart of the chromosome: SMC proteins in action, Nat Rev Mol Cell Biol. 2006, 7, 311.
  10. T. Hirano, Condensins: organizing and segregating the genome, Curr Biol. 2005, 15, R265.

主要メンバー

主宰者 add delete
平野 達也 Tatsuya Hirano 主任研究員    
スタッフ研究員 add delete
鎌田 勝彦 Katsuhiko Kamada 専任研究員    
小野 教夫 Takao Ono 専任研究員    
木下 和久 Kazuhisa Kinoshita 専任研究員    
新冨 圭史 Keishi Shintomi 研究員    
ポスドク add delete
山下 大輔 Daisuke Yamashita 基礎科学特別研究員    
藤原 崇之 Takayuki Fujiwara 基礎科学特別研究員    
西出 賢次 Kenji Nishide 特別研究員    
学生・研究生 add delete
技術系アシスタント add delete
松浦 明子 Akiko Matsuura テクニカルスタッフⅡ    
事務系アシスタント add delete
客員研究員・客員技師 add delete
その他のスタッフ add delete
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