加藤分子物性研究室

主任研究員

加藤 礼三

  • Reizo Kato
  • 理学博士
  • 加藤 礼三
  • 略歴
    1984
    東京大学大学院理学系研究科化学専攻 博士課程修了
    1984
    東邦大学理学部化学科物理化学第一教室 助手
    1988
    同 講師
    1990
    東京大学物性研究所 助教授
    1999
    理化学研究所 加藤分子物性研究室 主任研究員(現職)
    2009
    同 先端技術基盤部門 部門長
    2010
    同 有機電子複雑系研究チーム チームリーダー(現職)

研究概要

加藤分子物性研究室

当研究室は、純粋な有機物から遷移金属錯体まで多岐にわたる「分子」を構成成分とする機能性物質、特に超伝導体を含む電気伝導体の開発を行っている。分子性導体は見かけの複雑さに反して、明快で見通しの良い電子構造を持つ。その多様な物性は、低次元性、強い電子相関、格子の柔らかさ等に由来している。分子性導体では多様な分子修飾が可能であり、分子修飾による物性の精緻な制御が可能である。我々は、分子集合体の物性を合成化学的手法で制御することによって新しい物質を創造し、分子の特性を反映した新しい機能や現象を見いだすことを目指している。

最近の研究成果

有機FETでフィリング制御型モット転移を初めて観測

強相関分子性導体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの薄膜単結晶を用いたFET強相関分子性導体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの薄膜単結晶を用いたFET
図1 強相関分子性導体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2] Brの薄膜単結晶を用いたFET

電子は「粒子」でもあり「波動」としての性質も持つ。金属に電気が流れる時は、その運び手である伝導電子が「波動」としての性質を発揮する。しかし、単位胞あたりの電子数が1個の場合、バンド理論では金属的と予想されるにも関わらず、電子がお互いの間に働く反発力(クーロン反発)により動けなくなった「粒子」として振る舞い、電気を流せなくなることがある。このような電子は「強相関電子」、このような原因で電気を流せなくなった物質は「モット絶縁体」と呼ばれる。モット絶縁体では、元の電子の数からほんの少し増やしたり、ほんの少し減らしたりすると、それだけで電子の「波動」としての性質が復活し、突然電気が流れるようになる。このような現象を「フィリング制御型モット転移」と呼び、新しい電子材料を開発する上での重要な概念として注目されている。フィリング制御型モット転移は、銅酸化物が高温超伝導を発現する際にも重要な役割を果たしている。電子間のクーロン反発によってモット絶縁体となっている銅酸化物で、化学的に電子の出し入れを行ってモット転移を起こすと、高温超伝導を発現することがわかっている。しかし、こうした強相関電子の振る舞いには、まだ多くの謎が残されており、それらの謎を解くには自由に電子を出し入れできる物理的手法のFET(電界効果トランジスタ;Field Effect Transistor)を利用し、解析を行う方法が有効である。しかし、無機強相関物質を使ったFETでは、物質の複雑さのために解析が難しく、「フィリング制御型モット転移」の直接観測は実現できていなかった。

我々は、強相関分子性導体(モット絶縁体)の薄膜単結晶を用いてFETを作製し(図1)、これに低温状態で電界効果により少しずつ電子を出し入れした時の、抵抗率変化とホール効果を測定することによって、伝導電子(キャリア)の数と動きやすさを観測した。分子性導体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2] Br(BEDT-TTF = bis(ethylenedithio)はバルクでは10Kで超伝導になる物質であるが、この物質の薄膜単結晶をSiO2/Si基板に張り付けると冷却に伴って基板からの負圧効果を受けモット絶縁体となる。この絶縁状態に対して低温で基板からゲート電圧をかけると、n型のトランジスタ動作をした。次に、ホール効果測定により、デバイス中で動くことの出来るキャリア数がゲート電圧でどのように変化するか見積もった。すると、図2に示すようにわずかなゲート電圧(=キャリア注入)で劇的に有効キャリア濃度が変化し、金属状態と同じキャリア数となることが明らかとなった(図2中のQ=CVは電界効果により注入されたキャリアの数)。これは、全ての伝導電子が突然動き出す、モット転移の特徴を良くとらえた測定結果である。有機モット絶縁体のFET構造を使って、このように連続的に伝導電子の波動性が変化する様子を観測したのは、世界で初めてである。なお、図3はデバイス抵抗値の温度-ゲート電圧依存性で、デバイス中に存在する乱れがそれほど大きなものではなく、ホール効果測定の結果が信頼に足るものであることを示している。

ホール効果によって求められたキャリア濃度のゲート電圧依存
図2 ホール効果によって求められたキャリア濃度のゲート電圧依存
色々なゲート電圧における、抵抗率の温度依存性
図3 色々なゲート電圧における、抵抗率の温度依存性
挿入図は活性化エネルギーのゲート電圧依存性。
図1
Reproduced, with permission, from Y. Kawasugi, et al. Strain-induced superconductor/insulator transition and field effect in a thin single crystal of molecular conductor, Appl. Phys. Lett. 2008, 92, 243508. © (2012) American Institute of Physics
図3
Reproduced, with permission, from Y. Kawasugi, et al. Field-Induced Carrier Delocalization in the strain-Induced Mott Insulating state of an Organic Superconductor, Phys. Rev. Lett. 2009, 103, 116801. © (2012) American Physical Society

主要論文

  1. K. Hazama, et al. Fermi Surface and Interlayer Transport in the Two-Dimensional Magnetic Organic Conductor (Me-3,5-DIP)[Ni(dmit)2]2. Phys. Rev. B 2011, 83, 165129.
  2. T. Itou, A. Oyamada, S. Maegawa, R. Kato, Instability of a Quantum Spin Liquid in an Organic Triangular-Lattice Antiferromagnet, Nature Phys. 2010, 6, 673.
  3. M. Yamashita, et al. Highly Mobile Gapless Excitations in a Two-Dimensional Candidate Quantum Spin Liquid, Science 2010, 328, 1246.
  4. Y. Kawasugi, et al. Field-Induced Carrier Delocalization in the Strain-Induced Mott Insulating state of an Organic Superconductor, Phys. Rev. Lett. 2009, 103, 116801.
  5. T. Itou, et al. Superconductivity on the border of a spin-gapped Mott insulator: NMR studies of the quasi-two-dimensional organic system EtMe3P[Pd(dmit)2]2, Phys. Rev. B 2009, 79, 174517.
  6. N. Tajima, S. Sugawara, R. Kato, Y. Nishio, K. Kajita, Effect of the Zero-Mode Landau Level on Interlayer Magnetoresistance in Multilayer Massless Dirac Fermion Systems, Phys. Rev. Lett. 2009, 102, 176403.
  7. Y. Kawasugi, et al. Strain-Induced Superconductor/Insulator Transition and Field Effect in a Thin Single Crystal of Molecular Conductor, Appl. Phys. Lett. 2008, 92, 243508.
  8. H. M. Yamamoto, et al. Supramolecular Insulating Networks Sheathing Conducting Nanowires Based on Organic Radical Cations, ACS Nano 2008, 2, 143.
  9. K. Kubo, et al. Electrical Properties and Electronic States of Molecular Conductors Based on Unsymmetrical Organometallic-Dithiolene Gold(III) Complexes, Inorg. Chem. 2008, 47, 5495.
  10. Y. Kosaka, H. M. Yamamoto, A. Nakao, M. Tamura, R. Kato, Coexistence of Conducting and Magnetic Electrons Based on Molecular p-Electrons in the Supramolecular Conductor (Me-3,5-DIP){Ni(dmit)2}2, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 3054.
  11. N. Tajima, et al. Transport Properties of Massless Dirac Fermions in an Organic Conductor a-(BEDT-TTF)2I3 under Pressure, Europhys. Lett. 2007, 80, 47002.

主要メンバー

主宰者 add delete
加藤 礼三 Reizo Kato 主任研究員    
スタッフ研究員 add delete
山本 浩史 Hiroshi Yamamoto 専任研究員   2012.3.31
大島 勇吾 Yugo Oshima 研究員    
ポスドク add delete
野村 光城 Mitsushiro Nomura 基礎科学特別研究員    
崔 亨波 Hengbo Cui 基礎科学特別研究員    
山下 智史 Satoshi Yamashita 基礎科学特別研究員   2012.3.31
草本 哲郎 Tetsuro Kusamoto 基礎科学特別研究員    
須田 理行 Masayuki Suda 基礎科学特別研究員    
マジェッド・アブデル ジャワド Majed Abdel Jawad 国際特別研究員    
田久保 直子 Naoko Takubo 協力研究員    
直江 洋一 Youichi Naoe 特別研究員    
上田 康平 Kohei Ueda 特別研究員    
圓谷 貴夫 Takao Tsumuraya 特別研究員    
学生・研究生 add delete
技術系アシスタント add delete
事務系アシスタント add delete
客員研究員・客員技師 add delete
山本 浩史 Hiroshi Yamamoto 客員主管研究員 2012.4.1  
その他のスタッフ add delete
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