柚木計算物性物理研究室

准主任研究員

柚木 清司

  • Seiji Yunoki
  • 博士(工学)
  • 柚木 清司
  • 略歴
    1996
    名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻 博士課程修了
    1996
    米国 国立強磁場研究所 博士研究員
    1999
    オランダ グローニンゲン大学物質科学センター 博士研究員
    2001
    イタリア 高等研究所(SISSA) 博士研究員
    2006
    米国 オークリッジ国立研究所/テネシー大学 長期研究員/リサーチ准教授
    2008
    理化学研究所 柚木計算物性物理研究室 准主任研究員(現職)

研究概要

柚木計算物性物理研究室

当研究室では、物質中で起こる多彩な量子現象を、電子状態をもとに理論的に解明するために、様々な数値計算シミュレーションを行っている。特に、我々は、遷移金属酸化物や低次元有機物質などの電子間クーロン相互作用の強い系(強相関電子系)を中心として、そこで現れる新奇な電子状態、集団現象として起こる量子多体現象、および量子輸送現象に興味をもっている。量子多体効果を正しく理解するために、既存の数値計算手法を用いた様々なシミュレーションを行うだけでなく、量子多体系一般に対する新しい計算物理学的手法開発にも積極的に取り組んでいる。最近は、遷移金属酸化物を中心とした様々な酸化物を用いて作られたヘテロ構造体で起こる量子現象、特に、酸化物ヘテロ構造体界面での電子状態・量子輸送現象の研究も行っている。さらに、5d遷移金属酸化物等のスピン−軌道相互作用が強い系で現れる新奇な量子現象の解明にも興味を持っている。

最近の研究成果

スピン-軌道相互作用誘起モット絶縁体に対する量子シミュレーション

基底状態相図と一粒子励起スペクトル
図1 基底状態相図と一粒子励起スペクトル
(a)クーロン相互作用U/tとスピン-軌道相互作用λ/tをパラメータとした基底状態の相図。絶縁体相における(b)一粒子励起スペクトル(左)とそれをJeff=1/2状態へ射影したスペクトル(右)(縦軸原点はフェルミ準位に対応)。

Sr2IrO4の強いスピン-軌道相互作用に起因した電子状態に関連して、近年、共鳴x線散乱等の実験により、一粒子励起状態のホール状態はdxy:dyz:dzx=1:1:1となっている事が確認された。これは、この系の電子状態がJeff=S-L=1/2状態となっている事を意味し、スピン-軌道相互作用により誘起されたモット絶縁体の出現を示唆している。そこで、我々は、Sr2IrO4を記述する3軌道ハバード模型を構築し、まず、その基底状態の相図を変分モンテカルロ法で調べた。その結果、スピン-軌道相互作用がクーロン相互作用と協力的に働いて、新たなタイプのモット転移を引き起こすことが分かった(図1a)。これにより、スピン-軌道相互作用が大きい状況では電子間クーロン相互作用が小さくても絶縁体になり得ることが示され、Sr2IrO4に対する実験結果とよく一致している。次に、電子相関の効果を平均場を超える範囲で取り込むことの出来る変分クラスター近似法を用いて、スピン-軌道相互作用誘起モット絶縁体のミクロな性質を調べた。図1bに一粒子励起スペクトルの結果が示してある。この図から、ホール状態(ω>0の状態)はJeff=1/2状態でよく記述できていることが確認できる。他方、電子状態(ω<0の状態)、特にフェルミ準位近傍の低エネルギー励起状態も、多少のJeff=3/2状態との混成はあるが、おおむねJeff=1/2状態で記述できていることが分かる。我々の結果は、この系において、スピン-軌道相互作用によって誘起されたJeff=1/2モット絶縁体が実現していることを示している。

超伝導体-金属接合体におけるスピンホール伝導度の異常増大

我々は、大きなスピンホール効果を示すスピンホールデバイスとして、図2のような超伝導体-金属接合体(SN接合体)を提案した。Side jumpとskew scatteringの両者を考慮して、SN接合体の金属におけるスピンホール伝導度を理論的に計算した。その結果、超伝導体と金属間の電圧Vが超伝導体の超伝導ギャップに近づくにしたがって、スピンホール伝導度が異常に増大することが分かった。さらに、この増大は、金属においてフェルミレベル近傍での状態密度が共鳴的に増大することによって説明できることを示した。我々の結果は、外部直流電圧によってスピンホール伝導度を制御しさらに増大させる新たな方法を示しており、SN接合体が、大きなスピンホール効果を示す新しいタイプのスピントロニクスデバイスとして将来応用できることを示唆している。

Haldane-Anderson模型を用いたヘムタンパク質中の鉄イオンのスピン状態と価数

ミオグロビンなどのヘムタンパク質中の鉄イオンのスピン状態および価数変化を理解するために、我々は、活性中心を記述するHaldane-Anderson模型を提案した。まず、密度汎関数理論にもとづいた第一原理量子化学計算により、鉄イオンの周りのポリフィリン分子の電子状態、および、それらと鉄のd軌道との混成を評価し、それらを用いて、鉄イオンを含んだ活性中心を記述するHaldane-Anderson模型を構築した。本研究では、鉄イオンの多重項効果を正しく考慮するため、鉄の3d電子間相互作用(UJ)を取り入れている。例として、ミオグロビンの活性中心、鉄-ポリフィリン-イミダゾールFeP(Im)を取り上げ、それに酸素分子(O2)が吸着した場合FeP(Im)(O2)としていない場合FeP(Im)での鉄イオンの電子状態の違いを、平均場近似を用いて調べた。その結果、FeP(Im)の鉄イオン電子状態は、FeP(Im)(O2)に比べて、局所クーロン相互作用に対して非常に敏感であることが分かった(図3)。今後、平均場近似を超えたでレベルでこの模型を調べ、電子相関効果を明らかにする予定である。

巨大スピンホール効果を示す超伝導体-金属接合体の模式図
図2 巨大スピンホール効果を示す超伝導体-金属接合体の模式図
Vは超伝導(S)-金属(N)間にかけられた電圧、VbiasはNの両端にかけられた電圧。SとN間には絶縁体バリアが挟まれている。
オグロビン中の鉄イオンのスピン・電荷状態
図3 ミオグロビン中の鉄イオンのスピン・電荷状態
FeP(Im)(黒色)およびFeP(Im)(O2)(灰色)中の鉄イオンのスピン状態および価数の局所クーロン相互作用(クーロン斥力Uおよびフント結合J)依存性。

主要論文

  1. S. Hikino, S. Yunoki, Anomalous enhancement of spin Hall conductivity in a superconductor/normal-metal junction, Phys. Rev. B 2011, 84, 020512(R).
  2. M. J. Calderon, et al. Magnetoelectric coupling at the interface of BiFeO3/La0.7Sr0.3MnO3 multilayers, Phys. Rev. B 2011, 84, 024422.
  3. H. Watanabe, T. Shirakawa, S. Yunoki, Microscopic study of a spin-orbit-induced Mott insulator in Ir oxides, Phys. Rev. Lett. 2010, 105, 216410.
  4. Y. Sun, X. -Q. Chen, S. Yunoki, D. Li, Y. Li, New Family of Three-Dimensional Topological Insulators with Antiperovskite Structure, Phys. Rev. Lett. 2010, 105, 216406.
  5. S. Dong, et al. Highly anisotropic resistivities in the double-exchange model for strained manganites, Phys. Rev. B 2010, 82, 035118.
  6. S. Dong, et al. Exchange Bias Driven by the Dzyaloshinskii-Moriya Interaction and Ferroelectric Polarization at G-type Antiferromagnetic Perovskite Interfaces, Phys. Rev. Lett. 2009, 103, 127201.
  7. R. Yu, S. Yunoki, S. Dong, E. Dagotto, Electronic and magnetic properties of RMnO3/AMnO3 heterostructures, Phys. Rev. B 2009, 80, 125115.
  8. S. Dong, et al. Magnetism, conductivity, and orbital order in (LaMnO3)2n/(SrMnO3)n superlattices, Phys. Rev. B 2008, 78, 201102.
  9. S. Yunoki, et al. Electron doping of cuprates via interfaces with manganites, Phys. Rev. B 2007, 76, 064532.
  10. S. Yunoki, S. Sorella, Two spin liquid phases in the spatially anisotropic triangular Heisenberg model, Phys. Rev. B 2006, 74, 014408.

主要メンバー

主宰者 add delete
柚木 清司 Seiji Yunoki 准主任研究員    
スタッフ研究員 add delete
ポスドク add delete
段下 一平 Ippei Danshita 基礎科学特別研究員    
渡部 洋 Hiroshi Watanabe 特別研究員    
白川 知功 Tomonori Shirakawa 特別研究員    
挽野 真一 Shin-ichi Hikino 特別研究員    
ビビアン・バダウ Vivien Badaut 特別研究員    
学生・研究生 add delete
技術系アシスタント add delete
事務系アシスタント add delete
客員研究員・客員技師 add delete
その他のスタッフ add delete
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